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ケーススタディ

香蘭女学校 ビカステス記念館・芝蘭庵

現代建築における手業の復権。“骨太の骨格”に生命を吹き込む“心やさしいディテール”。

その空間にいて気持ちいい、その環境を訪れて落ち着く、その建築を見て豊かな心持ちになる…。これらを具現化するために、私たちは“骨太な骨格”とともに“心やさしいディテール”の創造にこだわります。どれだけ素晴らしいコンセプトに基づいてつくられた建築でも、実際に私たちが目で見て手で触れる部分をつくり込むことなしにそれは成立しません。
私たちは、それら内外装のディテールをクライアントの要望に沿ってさまざまにつくり込んでいくネットワークとノウハウを持っています。

『香蘭女学校ビカステス記念館・芝蘭庵』には、そうした私たちの考え方が随所にちりばめられています。学校創立者の名を冠したイギリス式洋館と純和式の茶室、それらは洋と和が無理なく共存するこの学校にふさわしく、茶事の際には洋館が待合いとなり、茶室と一体となって“もてなしの空間”をかたちづくるように考えられています。それら様式の異なる建築を違和感なく連続させることができたのは、ひとつひとつ丁寧に吟味されたディテールの取り合わせによるものです。

A 版築の柱
古くは法隆寺等でも見ることができる層状に土を突き固めてつくる建築技法。土の粒度の違いが、柔らかく動きのある表情をつくり出す。
B 質感のあるタイル
鉄分の発色を調節した2色のせっ器質タイルを交互に貼りあげた。柔らかく自然な焼きムラが出るよう試し焼きを繰り返した。
C 焼成した那須野石
もとは鼠色の天然石だが、炉で焼成すると中の鉄分が反応しさまざまな諧調の暖色を発色。
建物内外の巾木や暖炉のベース、茶室の炉、庭の腰掛に使用。
D 錆び鋼板の庇
耐候性鋼板の鉄錆び仕上げ。和紙貼りのガラスをかぶせた錆板の面をランダムに打ち抜くことで、光の粒がまき散らされたような表情とした。
E 和のステンドグラス
茶事の際、待合や立礼の席となる八角形のサロンには、正面に茶庭の景色をデザインした三幅対の手吹きステンドグラスをあしらった。
F 灯具のデザインペンダント
ペンダントとブラケットはすべて特注。ペンダントは筒ガラスを縞状にブラストし中に和紙を仕込むことで高輝度の光源を柔らかな表情とした。
G 鉄錆左官の扉
稲妻型に断面を加工した木の下地に鉄錆びを塗りつけた。木製の開閉し易さと鉄錆びの深い奥行き感・左官仕上げの重厚感を兼ね備えている。
H 床面のディテール
陶板敷きの床からふっくらと持ち上がったタタキの床にガラスを混ぜ込んだ。織部窓から日が射すとシェードの影にガラス片がキラッと光る。

職人のコメント1

山本明子織部製陶株式会社
営業企画部 次長

担当箇所

B: 質感のあるタイル

綿密なコミュニケーションによるディテールの創出

記念館の外壁は、光線や見る角度によって微妙な味わいを感じさせたいということで、2サイズのレンガを交互に積み上げていくイギリス積みを採用することに。色合いやサイズがさまざまにオーダー可能な当社の『クレイマスター』という手づくりレンガを指定されたんですが、2サイズの色味を合わせるのがメチャクチャ大変でした。建築に対するイメージを聞く中で、その雰囲気にはこのくらいの色味が合うだろうとか、サイズはこれくらいにした方がいいだろうとか、目地の組み方はどうすればいいだろうとか、他の職人さんたちの仕事の様子も窺いながら仕上がりのイメージを想定して見本焼きを3度も4度も繰り返すことで色味を狭めていきました。エントランスホールに至っては、585mm×285mmという床タイルとしては最大の大きさにチャレンジすることになったので、さらに色あわせが大変でした。
向井さんや宮澤さんたちの仕事はとにかく細部までこだわる。打合せの回数が多いので辟易することもありますが、その分やりがいも大きい(笑)。私たちの持っている技術をフルに使って彼らが目指す建築に参画できることは技術屋として大きな魅力です。何よりも一緒につくっている感じがするし、竣工したときの感激は言葉に言い表せないほどのものがある。打合せから現場での施工、そして竣工まで、タイル屋をやっていてよかったなと心から思える時間をいつも提供してくれています。

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職人のコメント2

谷口貫有限会社ぬり貫
代表取締役

担当箇所

A: 版築の柱

G: 鉄錆左官の扉

職人とクライアントをつなぐ有能なコンダクター

私の仕事のポリシーは、手づくりによるオンリーワンの仕事ということと自然素材を使うこと。その仕事に共感していただいた方に、カタログにはないもの、私にしかできないものが必要になったときに声をかけていただいています。
今回は、和と洋の間をつなぐ建物と言うことで、それぞれが様式を踏襲しながらも決してそれに囚われることのないオンリーワンの建物の創造に心を砕きました。『ビカステス記念館』の版築の柱は法隆寺にも使われている手法ですが、そのルーツは遠くヒマラヤに遡るもの。そして、エントランスに用いた鉄錆び左官仕上げの木製ドアは、私が編み出した新手法。こうした新旧のさまざまな手法を取り混ぜて、他では決して見ることのできないオリジナルな建物づくりに邁進しているのです。
かつて建築は、つくり手と買い手が綿密なコミュニケーションを図ることでできあがったものでした。しかし、いまはディテールのつくり手と買い手の間をつなぐ人がどこにもいなくなってしまった。そんな中で私たち職人と使い手との間を丁寧なコミュニケーションによってつなぐ宮澤さんや向井さんのようなつくり手はとても貴重な存在だと思います。建築はすぐれたコンダクターのもとで、さまざまな人々のチームワークによってはじめて機能するものだということを、彼らの仕事によってぜひ感じてもらいたいと思います。

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職人のコメント3

金子幸生株式会社フロント
建材営業部 部長

担当箇所

D: 錆び鋼板の庇

技術屋を本気にさせる確固としたヴィジョン

向井さんや宮澤さんとの仕事はいつもこだわりの連続です。今回は、記念館エントランスの錆び鋼板の庇を宙に浮いているように見せたいということで、本来は屋根下で支える桁を屋根上に載せて欲しいと言う。しかもそこに明かり取りの丸穴を星空のように散りばめたいと。屋根上の桁の存在がわからないように穴の位置を決めるのに苦労しましたね。また、同じ意図からエントランスドアの上枠を取り払い、屋根から直接ドアを吊りたいという相談もされました。あの大きさの屋根に1mmの狂いもなくレールを引き、さらに袖壁とピッタリ納まりを合わせていくことは至難の業でした(笑)。
しかしながら、その結果できあがった建物を目にしたときにはそんな苦労も吹き飛びましたね。浮いているような屋根のシャープさが、レンガ積みタイルのずっしりとした建物外壁の量感と鮮やかな対比をつくりだし、得も言われぬ雰囲気を醸し出している。やっぱり桁は屋根上にあるべきだったんだ、ドアは直接屋根から吊るべきだったんだと。
私たち技術屋は、建築家が思い描くイメージを具現化する方法論を見出すことが仕事です。その意味では彼らは、私たちの使いこなし方が抜群にうまい。技術屋の心をくすぐり、常にいま以上の新しいことにチャレンジするよう仕向けていく。その源は、彼らの建築に対する思いにあると思います。従来までの枠組みに囚われることなく、常にクライアントの夢に対する最適解を求め続けていく。その確固とした思いが私たち技術屋の心と身体を動かすのだと思います。

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建物撮影:Forward Stroke

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