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ケーススタディ

伊豆高原の家

動線計画と自然素材にこだわりぬいたユニバーサルデザインの家

静岡県・伊豆高原に位置し、南に相模灘、北に大室山を望む斜面地に計画した住宅です。
周辺を取り巻く自然環境とマッチする、ざっくりとした大屋根と米松の天秤梁で支える車寄せの屋根による大らかなシルエットを持つこの建物の内外は、本物の自然素材をふんだんに用い、吟味されたディテールと確かな職人技によって作り込まれています。
また、高齢のお母様とその娘さんお2人のための住宅ということで、平面プランや動線計画、設備計画、そして使用材料に至るまで、住まう人にやさしい住宅を目指してさまざまな配慮を施しました。
現在も、そして将来も、安心して住まい続けることができ、なおかつ年月の経過とともにさらに愛着が湧く空間づくりに心を砕いた住宅です。

私たちが考えるユニバーサルデザインとは?

私たちは、あらゆる人々に共通する使いやすさ、快適さの追求という点で、すべての住宅の基本理念にユニバーサルデザインという思想が存在するべきだと考えています。それは、過剰な設備に頼ることでもなく、贅沢に偏りすぎることでもありません。人間の生理に基づいた快適さを、自然の持つ力やそれを活かしてきた伝統に育まれたノウハウを設計に採り入れることによって、自ずと生まれてくるものなのです。
画一的で紋切り型のユニバーサルデザイン、バリアフリーデザインとは一線を画し、クライアントひとりひとりのライフスタイルに即した快適な住宅の創造に砕身すること。日常の生活シーンにおいて、だれにでも使いやすい住宅を念頭に、その上で高齢者や身障者を含めて、それぞれのライフスタイルに応じて個別の解答を見いだすこと。それこそが、私たちにとってのユニバーサルデザインに他ならないのです。

快適さを生み出す平面プランと動線計画

・段差のないフラットな床面とゆとりある廊下スペース
ユニバーサルデザインの基本となるのは、たとえ車いすでの生活となっても、無理なく室内を移動できる段差のないフラットな床面とゆとりある廊下幅の確保です(写真②)。ここでは、玄関を一歩上がれば、廊下からリビングや寝室、ウォーキングクローゼット、浴室やトイレ、そして屋外のウッドデッキに至るまで、段差のないフルフラットな空間を設え、ゆとりあるスペースの中で、移動や身支度などの日常生活におけるさまざまな行動を安心・安全に行えることを心がけました(写真⑥⑦)。もちろん、それぞれの室を仕切るのは、車いすでの移動を妨げることのない引き戸です。 唯一キッチン奥に配されたお茶の間には、あえて段差を設けることとしましたが、これは、キッチンで作業する娘さんと和室で寛ぐお母様の目線の一致に配慮したものです。親密なコミュニケーションの大きな妨げとなる目線の不一致を住宅におけるバリアのひとつとして捉え、クライアントのライフスタイルにおいて多くを占めるであろうこうしたシチュエーションを重視して、段差解消よりも目線の一致を優先することとしました(写真⑤)。
・パブリックとプライベートの使い分けを意識した平面プラン
バリアフリーを意識した住宅だけでなく、使いやすい住居を具現化するための大きな要素として、玄関やリビングなどお客様をお招きすることの多いパブリックスペースと、寝室や浴室などのプライベートスペースの関係性を意識した平面プランの必要性が挙げられます。特定の家人へのお客様が見えたときでも、他の人がその訪問に気兼ねすることなく個人の時間を過ごせることや私的作業を行えることが、快適な住まいの創造に大きくつながるからです。
ここでは、メイン動線となる玄関からリビングへの廊下を挟んで、東側にパブリックゾーン、西側にプライベートゾーンを配し、その廊下を使うことなく玄関からプライベートゾーンへと行き来できる別動線を設けることで、こうした点に配慮しています。
・ショートカットを多用した使い勝手の良い動線計画
高齢者はもちろん健常者でも、日常の生活シーンの中で無駄な動きはなるべく避けたいものです。玄関からリビングや寝室へ、キッチンからダイニングやお茶の間へ、洗濯室からウッドデッキへ。ここでは、こうした動きが最低限の移動ですむように、動線計画と平面プランを工夫しました。前述の玄関から寝室、リビングへの二重動線をはじめ、ウッドデッキを活用した回遊動線、 洗濯室とウッドデッキを近接させた平面プランなど、目的によって邸内での動きをさまざまにショートカットできる効率的な動線計画を創出しました。
・雨天でも安心の車寄せスペース
クルマでの外出がどうしても多くなる高齢者にとって、住まいとクルマとの関係も重要です。ここでは、贅沢に車寄せスペースを設け、クルマから玄関までの移動を最短距離になるように設計しました。米松の天秤梁で支える車寄せの屋根は、雨の日でも濡れることなくクルマへの乗降を可能にするほか、ざっくりとした大屋根と合わせて外観を特徴付けるアクセントとなっています(写真①②)。
・心地よい風が吹き抜ける二方向窓
人工的な空調設備になるべく頼ることなく、太陽光や風などの自然の力を大胆に室内に採り入れた快適な住まいを実現するために、リビングが位置する東面に大きな開口部を設け、そこからの風が建物内を通り抜けられるよう土間の位置する西面にも窓を設えました。また、夏場の直射日光が室内に射し込まないよう、ウッドデッキ上部には深い庇を設けています(写真⑦⑩)。
さらに、部屋を仕切る主要な引き戸やサッシュ面には引き込み式の簾戸も設置して、光量コントロールを容易にするとともに、風の通り道を確保しながら視線だけを遮ることもできるよう考えました(写真③⑦⑧)。
・視線や気分を変える天井高の変化
平屋建て、そして段差のないフラットな床面を持つ住宅は、階段や段差を利用した視線の変化に乏しいため、ともすると空間としての魅力を感じにくくなります。ここでは、リビングや玄関、廊下などの天井高に変化をつけて、空間の移動によって違った気分や雰囲気を味わえる住んで楽しい住宅の創造に心を砕きました。とくに高い天井高を持つ無柱空間として設えられたリビングルームは、この家のシンボル的空間として捉え、開放的で居心地の良い空間づくりを目指しました(写真④)。
・ヒートショック対策
家屋の中に潜むもっとも大きな危険は、ヒートショックです。ここでは、浴室と居室との温度差をなるべく抑えるため、浴室をウッドデッキに面した南側に配置しています。バスコートを介して豊かな緑と傾斜地ならではのダイナミックな景観を望むことのできる明るく開放的な浴室は、昼夜を問わず快適なバスタイムを楽しめます(写真⑥)。
・将来を見越した下地づくり
将来にわたって、もしも足が悪くなったときに備え、簡単な工事のみで手摺りを後付けできるよう、廊下や壁など想定される場所すべてに補強材を埋め込んでいます。また、何らかの理由による増床も容易に行うために、ウッドデッキ部分をその際の媒介として機能できるよう配置計画を工夫するなど、将来にわたる拡張性も見越した建築計画としています。
自然素材の採用

・身体にやさしい自然素材
何よりも住まう人の健康を第一に考えて、内装材には無垢材や珪藻漆喰をはじめとする自然素材をほぼすべてにわたって採用しています。合板やビニールクロスに含まれるホルムアルデヒドなどの有害物質は、とくに抵抗力が弱まっている高齢者の健康に悪影響を及ぼす可能性が大きいからです。肌で触れて気持ちのいい無垢材や湿度を自然コントロールしてくれる珪藻漆喰は、快適で健康的な住まいを生み出します。
・経年変化を楽しめる愛着の湧く家づくり
自然素材を使用した住まいの魅力は、健康面への配慮だけではありません。人工素材のように時を経る毎に劣化していくのではなく、経年変化によってその味わいや深みをさらに増していくことこそが、自然素材の持つもっとも大きな魅力と言えるかもしれません。 私たちは、そうした自然素材ならではの魅力をさらに引き出すために、長年にわたって日本の職人たちが培ってきた仕上げや工法にもこだわります。独自のネットワークを活かしたそれらプロフェッショナルたちとのコラボレーションにより、材料の選定や仕上げ方、そして工法など、その住宅に即した自然素材の扱い方を歳月を経るとともに魅力が増す家づくりに取り組んでいます。
ここでは内装として、床材に強度に優れる無垢のカリン材とナラ材をメンテナンスが容易で素地を楽しめるクリア塗装仕上げにて採用した他、壁材として吸放出性に優れる珪藻漆喰の左官塗り、およびリビングの一部に装飾として郷土の花である“河津桜”をテーマとした左官仕上げ(ぬり貫)(写真⑪)、天井材としてリビングには雲杉の柿渋仕上げ、和室は杉ノネ板による網代天井とし部屋の木部は全て柿渋仕上げ(写真⑤)。さらにリビングのサッシュにはこれら自然素材による設えとマッチする木製建具(レッドシダー)を採用し引き込み式の障子と簾戸を併用することで風通しや明るさを自在にコントロールできるような設えとしました(写真④⑦⑧)。
また、外装にも、この住宅に求められた重量感と安心感を象徴する、錫+SUSの金属左官による玄関扉(写真⑨)や、木の葉をあしらったロートアイアン製の面格子(写真⑫)、光が戯れる土間から外玄関までの床には焼成して温かみを加えた芦野石を敷き込み(写真②)、その天井部分には柿渋で仕上げた米松材の化粧屋根裏を車寄せの天秤梁まで連続させるなど、自然素材を用いるとともに、そこにさまざまな手仕事を施すことで、住み続けるほどに愛着が増す家づくりを目指しました。
設備計画

・床暖房システムの採用
自然通風や太陽光の採り入れなど、できるだけ人工の空調システムを使わないよう考慮された建築計画を補足するものとして、ここでは床暖房システムを採用しています。輻射熱を利用して、足下からじんわりとした暖かさが感じられる床暖房は、身体にもっともやさしい暖房システムのひとつです。また、天井部分に溜まりやすい暖気特性を考慮して、足下からゆっくり暖気を供給するこの暖房システムは、もっともエネルギー効率の良い暖房システムでもあります。
・車いす対応を見越した家具設計
洗面台をはじめとする作り付け家具は、将来の車いす使用も見据えて、すべてテーブルトップ下に収納を設けることをせず、十分な空間を採ることで、車いすであったとしても容易に作業を行える設計としました。(写真⑥)

オーナーのコメント

『伊豆高原の家』施主

高齢の母と娘の私との2人住まいの我が家にとって、もっとも強い要望としてお話ししたのが、使い勝手の良い住宅というシンプルなものでした。
それまで住んでいた家は、デザイン的にはとても気に入っていましたが、メンテナンスを含めた使い勝手という点では、とても疲れる住宅でした。リビングや寝室などいたる所に天窓が設けられ、ただそこに居るだけで日焼けするような状態でしたし、トップライトは掃除もとてもたいへんです。また、風通しや湿気に対する配慮も甘く、特にはじめのころは書籍や洋服やお鍋も含めて、室内のさまざまな場所の黴掃除に奔走する毎日で、まるで家を維持するために住んでいるような日々でした。
こうした要望を伝えて、何度もプランを出していただきながら詰めていった結果、実際にできあがった住宅は、私たちの拙い言葉を根気よく汲み取って、それに即したかたちを与えてくれる素晴らしいものとなりました。
高齢の母に配慮した間取りや動線はもちろん、日照や風通し、植栽など、周辺の環境を採り入れた快適さ、そして、それらを含めた手入れのしやすさに対する心配りなど、デザイン的にはもちろん、暖かみのある素材感や将来を見越しての拡張性など、すべてにおいてバランスがとれたものとなったことにとても満足しています。
とくに気に入っている空間はリビングルームです。ウッドデッキと連続した天井の高い開放的な大空間に射し込む光や風を、サッシュに組み込まれた簾戸や格子戸の開け閉めによって選択できることで、季節や気分に応じた雰囲気づくりを楽しんでいます。
母はもちろん、私にとってもとても使いやすい住まいになりました。

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撮影:Forward Stroke

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